【三年ぶり、蹌踉の天狗参り】


天狗小屋

【日 程】2015年8月22〜23日(土、日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】天狗角力取山(1376m)
【天 候】雨
【メンバ】単独
【コース】バカ平から天狗小屋ピストン



8/22駐車場(8:30)---(9:37)焼峰(9:45)---(10:51)猟師の水場(11:05)---(12:18)雨量ロボット(12:30)---(13:00)天狗小屋


それにしても時の移ろいが早い。
あれよあれよという間に八月も終盤、このままではイカン、何があっても朝日に帰るとある日突然心を決めた。と、ここまでは良いのだが去年は龍門に行ってE藤さんに迷惑をかけたので少し心が重い。じゃあと言う訳ではないのだが、どちらに行くか直前まで悩んで天狗行となったのは、やはりどう考えてもアプローチの善し悪し、9月になれば日暮沢林道もダムまで入れるような情報が少し聞こえてきたので、軟弱者ゆえ楽な方へ傾くのは仕方ないことだ。

8/15から16にかけて中登隊隊長より龍門行の誘いがあったものの、お盆に家を脱走するのは今の境遇では不可能に近いゆえ、泣く泣くお断りしたのだが、諦めきれない感情が消えもせず沸々と煮えたぎっていたのだ。
一年一度の朝日詣でとは情けない話だが、人の境遇というのはどのように変わるかなんて誰にもわからないもの、ポジティブに物事を考える努力だけは怠るまいと自分を鼓舞する。

本当は7月中にも一度だけ泊まり山行する余裕はあったのだが、直前に断念したのは優柔不断ばかりでもない。まあそれについては機会があれば後述したい。
単独行が心細かった訳でもないが、中登隊名誉会長にも一報してみたが、あまりに急な話ゆえ丁重に断られた。その時の話では管理人のI川さんが登らないかも知れないような口ぶりだったため、電話で確認したらOKとのこと。そうと決まれば準備に取りかかる。

以前だったら準備なんてのは買い物だけすればすぐに出来たのだが、今現在はそうも行かない。頭の中では準備できても、中高年の多くがそうであるようにすぐに忘れてしまう。特に筆者の場合は健忘の進行が著しく、振り出しに戻るを繰り返すこと数回、それでも忘れ物に気づいたのが月山を越えてから、もうこうなると完全に一つの病気である。
え、何を忘れたって? そんこと恥ずかしくって言えやしません(汗)

朝からの雨は庄内側は上がり日射しも見えたが、月山を越えると霧が立ちこめ雨の止む気配はない。まあこんなものだろうと諦める。
駐車場には先行者が二台、一台は管理人氏のものだろう。はてさて?



バカ平の平坦な道


この天気では半ズボンで登るのは蚊やアブの攻撃をまともに受けるので、合羽のズボンだけパンツの上に着用し上は傘を差して出発、案の定虫がうるさくつきまとう。それでも久しぶりの山歩きに胸がときめく。でもそれは長くは続かなかった。
気持ちよく歩けたのはバカ平まで、その後傾斜が増して苦しいことこの上なし、焼峰の休憩ポイントに着くまでに、何度本気で帰ろうと思ったやら…
湿度100%で雨も降り、蚊やアブの襲撃で腕の露出部はボッコボコ、そんなことより一番辛かったのは体力不足、一年ぶりの泊まり装備は甘くはなかったのだ。

去年はE藤さんに助けられながら登ったのでラッキーだったが、今年は単独一人旅ゆえ気持ちの持ちようが中途半端だったのだろう。息は上がり一歩踏み出すにも声が出る始末、三島由紀夫の作品に「美徳のよろめき」なるものがあったように記憶しているが、自分はさしずめ「牛歩のよろめき」だなと独りごち、自らに哀れみの嘲笑を投げかけながら何とか歩を進めた。
焼峰で大休止、家から凍らせて持ってきたポカリがほどよく溶けて美味しく一息つく。ここで雨も小康状態になり下界の雲がやっと切れ始めた。そして雲とは反対に、久しぶりの山の景色にじわじわと感動が湧き上がってきた。


  
焼峰からの眺望


以前は3時間やそこらで歩けた道が、一体今はどれくらいかかるか見当もつかないまま歩き出す。焼峰の分岐までは尾根道ゆえ風も通り一息つくが、分岐を曲がって下り始めると奈落の底に落ちていくようだ。さしずめここは地獄の一丁目か…
牛歩戦術で強敵にゼイゼイ言いながら向かっていく愚か者ゆえ下ばかり見ている。そのためか生えたばかりのキノコに目が行き少しは気が晴れる。頭の中は美味しく食べられるかな??なんてことばかり考えている。それでもよろめきながら進むと猟師の水場に何とか到着、冷たい水に喉を鳴らす。なんて美味いんだろう…

ここでも大休止してザックからパンを取り出してほおばる。少しシャリばて気味なのかも知れない。水筒にも大量補給し急登に向かうが、やはりすぐに息が上がり膝が思うように動かない。モモの筋肉がピクピクと痙攣し出し、ストレッチしながらだましだまし登っていく。それでもポンと稜線に飛び出したら風が心地よい。楽しみにしていた連峰の眺望は残念ながら視界なし。そのまま雨量ロボットを目指して少しは平坦になった道を進む。でも疲れた体には思いの外アップダウンがきつい。

三年前に家人をだまくらかして連れてきたときには、しこたま怒られたなぁ〜…
今はその気持ちが痛いほどよくわかる。
雨量ロボット広場でまたもや大休止、小腹が空いたのでおにぎり一個ほお張ると雨が本降りの様子、風も出てきた。すぐに傘を差して粟畑を目指すも石畳の登りが一段と辛い。這々の体で粟畑到着、証拠の写真を撮りすぐに下る。下りきったらガスの中から天狗小屋が現れた。すぐ近くに見えるのにもう一登りしないと着けないのだ。この坂が思いの外辛いのだ。



粟畑の標柱(到着の証明写真?)


それでも何とか登り切り天狗角力取場へ寄り道、嬉しいことにマツムシソウが出迎えてくれた。これには思わず涙がこみ上げてきた。
「やっと朝日に帰ってきたぞ〜〜!!」と一人で万歳三唱する。
しかしなぜここだけ花が咲いているのだろう?


  
マツムシソウ   と    リンドウ
もう秋なのだ


ここから一下りで小屋に着く。扉を開ける前に時計をみたら午後一時、何と4時間半も掛かっているではないか、これは加齢ばかりが原因ではあるまい、日頃の行いを猛省してから小屋の扉を開けた。
そこは嬉しいかな地獄の三丁目から抜け出したパラダイスなのだ。

管理人のI川さんとは久しぶりの対面、挨拶し近況を簡単に伝え合うと、お盆に中登隊のI藤隊員が単独で訪れたそうだ。筆者も暫くお会いしていないが、随分スリムになられたと言っていた。多分節制して山遊びしているんだろうなぁ…。それに引き替え我が身のひどさよ…
反省…
     反省…
          反省…

挨拶もそこそこに冷えた朝日ビールで乾杯、山での再会を盛大に祝す。
そこには冷えた朝日ビールが10本も、全部飲んで良いと太っ腹の大盤振る舞いだ。
感謝感謝…
代わりと言っては何だが天狗様へのお供えを少しばかり差し出し神棚へ柏手を打つ。朝日広しと言え神棚のある山小屋はここだけなのだ。こんな偏屈な中年男でも、神仏への畏敬の念が少しは存在するのだから世の中面白い。



何とか担ぎ上げた天狗様へのお供え


どうせこんな天気だから誰も来ないから、差しで盛大にやろうと膝をつき合わせて呑み始めて暫くしたら扉が開いた。そこには単独の男性が…
管理人氏は「おおお…」と固い握手でお出迎え、今年の冬に祝瓶山を一緒に登ったというG藤さんだった。
まさかこんな天気の中とこちらも嬉しくなりすぐに車座の中へ、再度乾杯と相成った。
その後G藤さんの差し入れもありがたく頂き盛大な宴が始まった。

こう言っては失礼だが、元来標準語は苦手な質で、庄内弁を使う管理人氏がいると家に帰ったみたいな気になる。その管理人氏も多弁な方なのでこちらもついつい多弁になったのだろう。G藤氏は山形市内の方なので意味不明の会話が続いて???だったはず、本当にすいませんでした。
とは言いながら時間の進行と共に酔いも回りますます熱く語り出すのだった(汗)
そんな中で突然扉の向こうに二人の登山者の姿が現れた。

男性は管理人氏と旧知のようだったが、もう一人の女性は初対面の様子、しかし顔は知っているようですぐに固い握手をして出迎えた。筆者は恥ずかしながら存じ上げませんでしたが、非常に高名な登山家でありました。
出谷川へ下り、沢を遡行しながらイワナ釣りをしてきたそうです。
男性がW田さん、女性がT口さんで、管理人氏の話では高名な「金のピッケル賞」を受賞された世界的な登山家だそうです。

とは言いながらお二人とも非常に気さくな方達で、すぐに宴会の輪の中に入ってもらい楽しく語り合いました。
筆者の性格上就寝時間は毎度のごとく不明であります。カタカタとした物音に気づいた時にはもうすっかり夜が明け、朝日が高く上がった時刻でした。

いつもは料理など絶対にしないという管理人氏が、前日採ったキノコでトビタケご飯を炊いてくれると言います。
もちろんそれはW田、T口両氏への献呈のためであることは明白でしたが、そこは厚顔を看板に掲げる者ゆえ当然の顔をしてご相伴にあずかりました。
ええ、とても美味しい食事でございました。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

そして両氏には、食器の洗浄やゴミの持ち帰りにも率先して協力していただき感謝申し上げます。ありがとうございました。お会いできたこと感動いたしました。
てか、おまえは何をしたんだと怒られそうですが、まあそこは一年ぶりと言うことでご容赦ください(汗)

もう少し節制して山に通わなければね…



全員で記念撮影


追伸、管理人氏へ

頂いた貴重なキノコ大変美味しく頂きました。
また時間があればお邪魔しますので、邪魔だと言わずに泊めてください(笑)

ご一緒した皆様、本当にお世話になりました。またどこかで遇ったら宜しくです。

朝日はやっぱり良いですねぇ…


チチタケ  と  ハナビラタケ